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実施中のプロジェクト
1.遊牧民と野生動物
野生動物保護区あるいは放牧地として使用される草地での、遊牧民と野生生物との競合問題は、生物の多様性保全と文化の多様性が共存できるのか、又いかにして共存するのか、という問題でもあります。インドのみならず、世界各地の遊牧というシステムと自然環境について、私たちは科学的視点と文化的視点の双方から調査研究を実施しています。現在行っているプロジェクトは、ジャンムー・カシミール州のダシガン国立公園(カシミール)と、チャンタン動物保護区(ラダック)が対象になっています。

ダシガン国立公園では夏季に上ダシガンの高山草原域で、バックラ・ワール、グジャルなどの 季節性移牧を行う遊牧民や、近隣の村の羊飼いたちが、ヤギ・ヒツジ・ウマの放牧を行ってきました。国境近隣域の豊潤な放牧地が、国家間の緊張の高まる中閉鎖されて以降、ダシガン国立公園及びその周辺での放牧頭数は増加しています。また、同地域を主要生息域とする絶滅危惧種の カシミールアカシカ(ハングル)の保全問題も瀬戸際にたたされています。


本研究所では草地の放牧インパクト調査と遊牧民が伝承してきた生態系に関する知識を照らし合わせる事で、希少な野生動物の保全も充たす改善策を提案する予定です。そして、遊牧民、保護区管理機構、近隣村民の3者による「生態コミュ二ティー意識構築会議」を企画しています。

一方、高標高地チャンタンの遊牧民チャンパは、ダシガンの遊牧民とは異なり同じ場所での草地使用期間は半月〜1ヶ月と、短期間での移動を年間を通じてこの高原内でくり返しています。周辺にはチベットノロバ(キャン)やブルーシープなど多種の野生動物が生息し、良好な共生関係を継続してきました。しかし、最近は世界的に拡大するパシュミナ(カシミヤ)の需要に応じて、パシュミナ山羊の生産量を増加させたことで、野生生物との共生関係にも変化が現れ始めているようです。本研究所では今年から、この実態調査をツォ・カル湖周辺で始めました。

これら文化、歴史、風土も異なる2種の遊牧社会における放牧実態の調査から、それぞれの諸問題に対する改善策を提案するとき、両者を比較することで、互いの解決策へのヒントや応用可能な知計などが、みえてくるのではないでしょうか。
(上記のプロジェクトは公益信託地球環境日本基金並びに財団法人トヨタ財団からの助成を得て実施しています。)